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2013年02月13日

トロコイド

 しつこい様だがトロコイド加工の問題点について、もう少し分り易く書いてみたいと思う。

 まず特に根拠もないがφ10のエンドミルにて径方向3mm切込みの側面削りを基準として、溝加工をそれと同程度の負荷になるトロコイド加工で行う場合について検討してみる。

 普通はこういう加工の場合はもっと浅切り込みにするかも知れないが、あまり細かくするとごちゃごちゃして見難いので図示の都合上これくらいにした。また仕上げ代なども簡略化の為に考慮しない。

 今回は直線削りの条件を基準にしているのでまずその状態をきちんと把握しておく必要がある。φ10のエンドミルにて径方向3mm切り込むと、図1に示すように切削関与角(エンゲージ角、あるいは工具接触角などとも呼ぶ)は約66.4度となる。

Tool-Engagement-Angle.png
<図1> 基準条件での切削関与角

 以前にも少し書いたが、エンドミル中心の送り速度が一定の時、この切削関与角が一定であれば切削抵抗も一定となる関係にある(正比例の関係ではない)。従ってツールパスの各部に於ける切削関与角が常にこれとほぼ等しく、かつこれを超えない事が望ましい。

 では実際に数種類のトロコイド様ツールパスを作成してみて、その辺りに違いが有るか比較してみたい。

 なお加工形状としては幅30mmの直線溝加工とした。

トロコイドスロット

 まずMastercamには「トロコイドスロット」と呼ばれる溝加工用のツールパスがある。曲線を2本選ぶと、その間をトロコイド的に加工するツールパスを作成してくれる。

 これにステップオーバー=3mm、丸め半径=5mm(進入・退避の円弧半径)という条件を入れて作成したものを図2に示す。なおこのトロコイドスロットでは丸め半径はステップオーバーよりも大きな値を設定しなければならないという制約がある。

Toolpath_Parallel-Trochoid.png
<図2> トロコイドスロットのツールパス(途中まで)

 二重にハッチングした領域が1パスで切削する範囲である。切削ピッチを実測してみると2.868となっており、3mmより若干小さな値となっていたが、この理由は定かでない。

 さて、この時の切削関与角はどうなっているのだろうか。簡単に調べる方法が無かったのでツールパスを図形保存して作図しながら測るというローテクを駆使して調べてみた。手間掛かるのでちょっと粗くなるけど2mm間隔で。

Engamement-Angle_Parallel-Trochoid.gif
<図3> トロコイドスロットの各部の切削関与角

 すると進入・退避の部分で所定の切削関与角を大きく超えている所がある事が確認できた。

 これは進入退避の円弧半径が小さい事が影響している。

 そこで一般的によく見る、円弧動作だけのトロコイド加工にするとどうなるだろうか。

 円弧半径は溝幅-工具径からR10になるのは良いとして、ピッチは円弧の内側を削るから3mmではまずい。適当に計算してみると約2.3mmで直線削りの3mmと同じ切削関与角となりそうだ。

Toolpath_Circle-Trochoid.png
<図4> 円弧状トロコイドのツールパス

Engamement-Angle_Circle-Trochoid.gif
<図5> 円弧状トロコイドの切削関与角

 最大の所でも66.4度以内になるようにと考えてピッチを2.3mmに決めたのに、頂点より少し手前の所で切削関与角が68.6度となっていて若干オーバーワークとなってしまった。これは誤算。

 先のツールパスと比較すると進入・退避時に過大な切削関与角となる事は無いようだが、今度は逆に全体的に切削関与角が小さい気がする。

Adaptive Clearing

 同じ形状を今度はMastercamの「ダイナミック」を使ってやってみる。条件を揃える為、こちらもステップオーバー=3mm、ツールパス半径=5mmに設定する。トロコイドスロットと違ってこちらのツールパスには進入退避半径の大きさに変な制約が無いのでもっと小さくても良いのだけど...

Toolpath_Adaptive-Clearing.png
<図6> Adaptive Clearingなツールパス

 何と言っても特徴的なのがこの歪な軌跡。さて、実際のピッチは2.388となっていたが、切削関与角の方はどうなっているだろうか。

Engamement-Angle_Adaptive-Clearing.gif
<図7> Adaptive Clearingでの切削関与角

 進入時の結構早い段階からほぼ所定の切削関与角に達しているが、その後は変動が少ないように見える。また退避し始める所で一瞬だけ67.4度と、僅かだがオーバーしている所があったが、これが計算誤差による物なのかどうかは定かではない。

 誤差要因としては、まずツールパス計算のトレランスを多少甘く設定しているのと、更にフィルタによって微小直線を円弧に近似しているので、その誤差の積み重ねが影響している可能性が考えられるが、断言は出来ない。

切削抵抗の比較

 切削関与角が分かったのでそれを基に切削抵抗を推定して比較してみたい。

 だが切削関与角と切削抵抗の関係は単純な正比例ではないのでちょっと面倒だ。詳しいことは省くが、切削関与角から平均切屑厚みと比切削抵抗を求め、断面積を掛けて切削抵抗(のうちの接線方向分力)を求めるといった手順を踏めば良いと考えた。絶対値は工具諸元や被削材によってだいぶ変わってくるが、相対的な比較であればこれで良いと思う。

 まぁそこまでしなくても単純に切削関与角だけでグラフを描いても山の形はほぼ似たような物になると思う。スケールが出鱈目でも良ければだけど。

 といった感じで先ほど調べた切削関与角をエクセルに打ち込んで描かせたのが下のグラフだ。

Graph_Cutting-Force.png
<図8> 切削抵抗の相対比較

 直線肩削りの3mm切り込みの時の切削抵抗を1として、それとの相対比率を縦軸に置いた。横軸は切削周期みたいな感じ。時間のスケールを正しく反映していない。

 エアカット部の時間がテキトウ過ぎたのでグラフを書き直して単一周期のみに直しました。これによって横軸はツールパスの経路長に対応するようになっています。

 進入円弧が小さいトコロイドでは、進入時にかなりの過負荷が生じている事がよく分かる。逆に全体を円弧動作にしたトコロイドでは所定の負荷に達していない部分が多く在り、これでは少し能率面で勿体無い。先日のコメント欄に書いた「それでもまだ過負荷になる部分があったり、逆に過小になる部分もあって無駄」と云うのはこういう部分の事。

 それらに比べるとAdaptive Clearingの負荷の安定性が際立っている。

 勿論普通のトロコイドでもピッチと円弧半径の大きさを上手い事設定すればもっと良くなるだろうが、問題はその“調度良い値”というのが一体いくつなのか、簡単には分からないだろうという点。特に何も気にしなくても良いAdaptive Clearingとの大きな違いはそこにあると思っている。


 さて、本当にこんな計算のようになるのか嘘くさい?

 まぁ確かに適当に考えたモデル式に沿って算出しているだけの推定値なので、そもそもモデルを間違っていればこうはならない。

 トロコイド加工についてはきちんと検証していないが、Adaptive Clearingに関しては以前に載せたこの動画で確認出来るように、実際に負荷変動が少ない事は確かなようだ。

 まぁ実際に自分で削ってみて、ロードメータや切削音等などで確かめてみる事も出来るだろう。


 以上はMastercamでの事例なので他のCAMでも同じであるとは限らないが、多くの旧来のツールパスはエ切削関与角の事を考慮していないと思われるので、同様の問題を孕んでいる事と思う。

 従ってユーザー自身がその点に気を使って条件設定しないと思わぬ過負荷を生じる事になり兼ねない。

 うちのCAMはそんな事にはならないよと言えるメーカーさんは、その事をしっかりアピールすると良いんじゃないでしょうか。



 一旦ここまで


posted by antec at 21:17 | Comment(5) | TrackBack(0) | 加工理論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
なるほど、なるほど・・・φ(..)メモメモ
Adaptive Clearing、少しだけわかって来たような気がします
私もやってみたいけど、お金が絡むでのなかなか難しいぃ!


Posted by かずばん at 2013年02月17日 10:55
グラフ化して見えると面白いですね!
勉強になります。

図示を見て思ったのですが、溝幅に対し安定した切削状態が維持できる工具径の選択方法(計算式?)などはあるのでしょうか?
Posted by shiro at 2013年02月19日 01:04
>かずばんさん
 確かにそこが一番の問題ですね;


>shiroさん
 グラフ化すると負荷の違いが一目瞭然になって良いですよね。
 ただし実測値ではないのでそもそも計算を間違ってるという可能性もありますから、次回はその辺の事を少し書こうと思っています。

 で、こういうグラフを見ると、トロコイドの負荷変動は“予想以上”だと感じる方は多いのではないでしょか。この手のトロコイドで負荷を一定に保つのは決して簡単ではないと思っています。
 ですので
http://www.mastercam.co.jp/tech_info/Jirei3.html
 こういう風に「トロコイド動作により工具負荷一定の加工動作」とか白々しく書かれちゃうと、ウソコケと言いたくなります。
 先日もとあるCAMメーカーさんとトロコイド加工の話をした際に、ちょっとその場ではきちんと確認出来なかったのですが、後日自分で図描いて調べてみたらやっぱり大きな負荷が掛かる状態になっていました。
 その方は被削材との接触をみてトロコイド動作を入れているのでそれ以上の過負荷にはならないはずだと仰っていましたが、多分これも被削材との接触角(エンゲージ角)を見ているのではなくて半径方向の食い込み量を見ているのだと思いますが、それだと負荷が一定にはならないのですが、その辺りの事が一般的になっていないのでしょうね。

 工具径に関しては一般的には溝幅の70〜80%以下にするような事が言われていますが、それ以上の事は分かりません。
Posted by antec at 2013年02月19日 13:16
こんにちは、こちらでは初めまして
いろいろ辿って参りました。
トロコイドのネタ読みました。

>トロコイドの負荷変動は“予想以上”だと感じる方は多いのではないでしょか

まったく、その通りです。
今までの自分は甘いですね。ここまで↓

>接触角(エンゲージ角)

しかも動く図解入りで(バカな僕でも解るように)
「ノリとカン」だで削っている自分が恥ずかしいです。
これからも宜しくお願いします。
Posted by 赤い彗星 at 2013年03月07日 19:29
わざわざ有難うございます。
この業界に限った事ではないでしょうけど、嘘ではないけど嘘に近い宣伝文句というのは一杯ありますからね。
いずれはAdaptive Clearingのダメな所についても触れて行きたいと考えていますが、なかなか思うように進んで行きませんw;
Posted by antec at 2013年03月09日 08:24
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