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2010年11月07日

理論面粗度

 理論面粗度について。切削加工では切れ刃の形状を被削材に転写するので、ボールエンドミルではスキャロップと呼ばれる波形の加工面が形成されます。この時の波の高さをスキャロップハイト(カプスハイト)と呼びます。この高さは理論的には工具のRとピックフィード(ツールパスのピッチ)によって計算出来ますので、これを理論面粗度(理論スキャロップハイト、理論カプスハイト)として要求面粗度を満たすピックフィードを決める際に一つの目安とされています。

 因みにスキャロップ(Scallop)とはホタテガイの事です。ホタテガイの貝殻のようにデコボコした波形から来てるのでしょうか。余談ですがMastercamがV9からXへと大幅刷新されたとき、日本語のヘルプファイルも一から作り直したわけですが、機械翻訳を使ったからでしょうか、「スキャロップ加工」が「ホタテ貝加工」に翻訳されてた事もありました。まぁ背景を考えれば無理も無いかなと同情せざるを得ない状況ではあったわけですが、思わず吹き出しました。
Roughness1.png


 理論面粗度は文字通り理論値であって、実際にいくつで仕上がるかは別問題です。というか理論値よりも良くなる事は殆どありません。それは切れ刃の面粗度、加工中の振動なども転写される事と、摩耗や溶着などによって毟れやバリを生ずるからです。特にボールエンドミルで平坦な面を加工すると周速ゼロのチゼル部を使う事になり、ここは切屑の生成も複雑ですし、そのチゼルがワーク表面を掻き毟る形になるので理論値よりはかなり面粗度は悪くなります。そんなわけでもし理論値よりも良い結果が得られた場合、それは理論値の方がおかしいと疑うべきですね。

 さて、理論面粗度は一般的に次式で計算出来ると言われています。
Ry ≒ F^2/8R [mm] --- (1)

 Ry : 理論面粗度 [mm]
 F : ピックフィード [mm]
 R : 工具半径 [mm]

 これは近似式でして、ピックフィードが工具のRよりも十分小さければ精度良く近似します。正確には
Ry = R - SQRT(R^2-F^2/4) --- (2)
になります。理論式から近似式への導き方は
三平方の定理より

  (R-Ry)^2+(F/2)^2=R^2 ---- (3)

これを解いていくと

  R^2-2*R*Ry+Ry^2 + F^2/4 = R^2
    -2*R*Ry+Ry^2 + f^2/4 = 0
     Ry(Ry-2*R) + f^2/4 = 0 --- (4)

ここで R≫Ry なので Ry-2R ≒ -2R とすると

  Ry*(-2*R) + F^2/4 ≒ 0
        2*R*Ry ≒ F^2/4
          Ry ≒ F^2/(4*2*R)
          Ry ≒ F^2/(8*R)

として(1)式を得る事が出来ます。この中でR≫Ry なので Ry-2R ≒ -2R とするとあるように、この近似式は工具Rに比較してRyが十分に小さい時、言い換えればピックフィードが小さい時において近似します。

 さて、この式を旋盤加工にも当てはめるケースがよくあります(工具のカタログや専門書などにも掲載されています)が、旋盤加工では前切れ刃角の存在を忘れてはいけません。
PCLNL2020K4.png

Roughness2.png

 NC旋盤では使い勝手の良さからCNxxやWNxxといった前切れ刃角と横切れ刃角が共に5°の工具がよく使われます。この5°という浅い切れ刃角によって縦送りでも横送りでも被削材に食い込まないで使える訳ですが、図の様にカプスの山を刎ねる作用もありますので、少し送りを上げただけで(1)式や(2)式の理論値とは随分誤差が大きくなってきます。特にワイパーインサートの場合ではワイパー幅以内での送り速度であれば、ノーズRは関係無しに理論面粗度は略ゼロになります。この事も旋盤加工での理論面粗度が(1)式だけでは求められない事を単的に示しています。
 とは言っても、この前切れ刃角(と被削材の成す角、空かし角)をも考慮して理論面粗度を計算すると式が難解となってあまり実用性があるとは思えません。またカプスハイトを創生するのがノーズRの部分なのか、直線状の切れ刃部分が当たるのかの判別も必要となってきます。現実問題としてはワイパーインサートを除けば実用的な送り速度であれば有名な方の理論式でだいたい合うのでそう問題なかったりもします。

 ですが時々間違った理論式によって求めた値と比較して理論値よりも良かったとしている文献を見かけますが、それはおかしいでしょう。稀なケースとしては摩耗によってノーズRの一部が平坦となり、かつあまり毟れを生じない被削材の場合にその平坦となった切れ刃形状かほぼそのまま転写される事で理論値よりも良くなる事がありますが、その場合でも工具形状が変わっている事を考慮していないからそうなるのであって、切れ刃形状を厳密に扱えば理論値よりも良くなる事は無いはずです。

 という訳で前切れ刃とワークとのなす「空かし角」から理論面粗度を求める式を考えてみようかと思います。
Roughness_Graph1.png

 上図の左側の円の下死点を原点にとって前切れ刃角が構成する直線(以後 "切れ刃直線"と呼ぶ)を y=Ax+C の式で表した時、Cは切れ刃直線とY軸との交点ですから、三角関数の定義にある様に
C = R - secθ = R - R/cosθ --- (5)
で求める事が出来ます。また傾きAはtanθですね。
 この切れ刃直線と右側の円弧との交点の1つが理論面粗度 Ry となります。
 交点を求める為にまず右の円弧の中心から切れ刃直線に垂直な線を考えます。その垂線の長さを L、また垂線の単位ベクトルを(vx,vy)とすると、垂線と切れ刃直線との交点 P(x,y)は
Px = F + L*vx
Py = R + L*vy

 となります。この点は切れ刃直線 y=Ax+C 上にある訳ですからこの式に代入して L について解いてみると

  R + L*vy = A*(F + L*vx) + C
  R + L*vy = A*F + A*L*vx + C
  L*vy - A*L*vx = A*F + C - R
  L(vy - A*vx) = A*F + C - R
  L = (A*F + C - R)/(vy - A*vx)

これに A = tanθ、C = R-R/cosθ、vx=sinθ、vy=-cosθ を代入して

  L = (tanθ*F+(R-R/cosθ)-R) / (-cosθ-sinθ*tanθ)
  L = -(tanθ*F-R/cosθ) / (cosθ+sinθ*tanθ)

ここで tanθ=sinθ/cosθ より

  L = -{F*(sinθ/cosθ)-R/cosθ} / {cosθ+sinθ*sinθ/cosθ }
  L = -{ (F*sinθ-R)/cosθ} / { (cos^2θ+sin^2θ)/cosθ }

また三平方の定理より sin^2θ + cos^2θ = 1 となるので

  L = -{ (F*sinθ-R)/cosθ} / { 1/cosθ }
  L = -(F*sinθ-R)
  L = R-F*sinθ --- (6)

 と、ようやくシンプルな式を導く事が出来ました。

 ここで右円弧中心からRyまでの線と垂線Lとの成す角λは
λ = cos-1(L/R) --- (7)
 このλが分かると右の円弧中心からRyまでの高さが三角関数によって求まるので、残ったRyの高さは
Ry = R - R*cos(λ-θ)
  = R - R*cos{cos-1(L/R)-θ}
  = R - R*cos{cos-1(1-F/R*sinθ)-θ} --- (8)

という式によって前切れ刃角を考慮した理論面粗度を求める事ができるとわかりました。かなり面倒な式ですね。三角関数をきちんと勉強してなかった為、この式を更に簡素化出来るのかは私の頭では無理です。
 ※ここでθは前切れ刃と工作物の成す"空かし角"です。片角10°のテーパ面を前切れ刃角5°のバイトで挽く場合のθは10+5=15°となります。

 さて先にも述べましたが、実際のカプスがノーズR同士で形成されるのか、ノーズRと直線切れ刃の部分で形成されるのかの判別が必要となります。これはノーズR同士の交点位置が前切れ刃よりも上にあるか、下にあるかを見れば良いので
α = sin-1( F/2R )
としてこの時の角度αが空かし角θ以下であればノーズR同士であると分かります。

 ちなみにこの空かし角ですが、アルミ合金をダイヤモンド工具で鏡面切削する時に最も面粗度がよくなる空かし角を探った所、約0.1°の時が最も良かったとの結果をどこかで見た記憶があるのですが、今検索してみても見つかりません。どこかの加工屋さんで真空チャンバーのシール面を加工した時のデータだったと思うのですが、もう何年も前の事ですので削除されてしまったのでしょうか。残念です。

posted by antec at 17:24 | Comment(0) | TrackBack(0) | 旋盤 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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