Top加工理論>高送り加工の罠

2010年10月31日

高送り加工の罠

 ねじの話は読み返してみても結構わかりにくい点がある様な気がしますのでもう少し纏めてから書きたいと思います。今日は少し話題を変えて、再び高速加工について書いてみます。

 以前にも高速加工について書きましたが、高速加工を実現するに当たっては如何にその高速性能を発揮するかがとても重要になります。ここで言う「高速加工」には2つの意味があり、1つは「高速切削」つまり切削速度の面から見た高速加工と、もう1つは「高送り加工」つまり送り速度の面から見た高速加工です。
 高速切削についても色々と想うところはあるのですが、今回は再び高送り加工の事について書くことにします。

 近年のCAD/CAMのトレンドはこの高速加工への対応です。毎回のバージョンアップ内容を見ていてもツールパス品質の面ではHSM対応に関する物が殆どです(同じツールパスエンジンを採用しているのも原因ですが)。工作機械や制御装置、切削工具などの進化に伴って高送り加工というものが身近になって来ましたが(そのお陰で僕ら零細企業でも高速高送り加工っぽい事が出来ます)、それに合わせてCAD/CAMもそのツールパスに様々な工夫を盛り込んで来ている訳です。

 特に出だしの頃の単なる等高線加工には切削負荷の変動が伴い、それが枷となって工具や機械の性能を発揮できず、元々の目的であった加工能率を犠牲にしていた様に思います。近年のCAMのツールパスはその点の解決に主眼を置いて、切削負荷を如何にして一定に保つかという部分が改善されています。10年前もCAMメーカーさんの営業文句は今とあまり変わりが無いように感じているのですが、まぁ確かに、ようやく最近のCAMの出す所謂HSM(High Speed Machining)と呼ばれる類のツールパスは、工具接触角などを考慮した工具への負荷変動が極端に大きくならない工夫がされているように見えます。

 ところがです。実際に加工してみるとあまり能率が改善されたように見えないのは何故でしょうか?工具寿命は以前と比べ、突発的な損傷も減り結構安定するのは確かです。ですが加工時間の面では言うほど改善効果が認められません。この原因についていくつか考えてみました。

高速加工は何故遅い?


 やはり工具の負荷を減らす為に切込み量を下げているのだから加工能率が下がるのは致し方無いのでしょうか。いや、それでは本末転倒でしょう。生産現場、特に量産となると工具費を抑えるよりも加工能率を向上させる方が遥かに経済的な筈です。単品部品ばかり加工している我々試作屋には多少能率が落ちても一発目で間違いない物が出来る事も重要なのですが、やはり高速加工がこれだけ騒がれたのには加工能率の面でもそれなりに効果があって然るべきなのです。それが実現出来ていないという事は、何処かが悪いとしか考えられません。

 加工能率は単位時間当たりの切削量(ワーク除去体積)ですから、これが低いという事は、切込みが浅いか送りが遅いという事になります。切込み量は意図的に下げているわけですが、これが低すぎるという事も考えられます。送り速度については同様に指令速度がまだ遅いのか、あるいはどこかでブレーキが掛かっているのかが考えられます。そしてもう1つにはエアーカット、つまり削っていない(仕事をしていない)時間があるのでは無いかという事が考えられます。

 そこで改めてHSMツールパスをよくよく見てみますと、コーナー部の工具接触角度が増大する部分にトロコイド動作を入れるなどして切削回数を増やしている点が気になってきます。トロコイド動作では明らかに非切削移動を伴いますので、こういった点は能率を落とす要因となるのは間違い無いでしょう。

 と同時に、曲率の小さな円弧運動は送り速度にもブレーキをかけてしまいます。この事は工具に掛かる直接的な負荷は抑える役割も果たしますが、デメリットも有るのは事実です。実際に加工機の前に立っていると、直角コーナーで減速や停止させると、それまでスムーズに加工していた工具が突然泣き出したりするのは経験があるでしょう。これは果たして工具に優しい現象なのかと言えば決してそうでは無いと言えます。
 もしこのコーナーでのベタ当たりがそのまま工具の損傷に繋がる程の負荷を与えているのであれば避けなければならない事ですが、まだ工具側にそれに耐えうる余裕がある場合には、却って一気に削ってしまった方が良い場合があります。HSMのコンセプトを守る為に切込み量や送り速度を計算し、負荷が一定となるようにすることが、工具に対して過保護とも言える負荷低減をさせているとすれば、それは工具を活かす事とは逆の状態と言わざるを得ません。所詮工具は物を作るための捨て駒に過ぎないのですから、その能力の目一杯の所で使わなくては能率を向上させる事など出来やしないのです。

 もう1つHSMツールパスには問題点があります。それはツールパスが複雑過ぎるという点です。極端な例ですと、単純な四角のポケットを加工する際に、切込み量は同一にして従来の2次元加工のツールパスとHSMツールパスを比べてみて下さい。明らかにHSMツールパスの方が長大で、面倒な動作を含んだ経路と成っている事でしょう。複雑な工具経路は必然的に機械の加減速の能力を要求します。もし機械にその経路を一切の減速を伴なう事無く動く機敏性と、その長大で複雑なNCプログラムを処理する十分な演算能力が制御装置にあれば別ですが、そうでなければ経路誤差を生じるかブレーキを掛けて減速するしかなくなります。この事は特に微細加工において顕著に表れてきます。Sodicが開発した超高速マシニングセンター AZシリーズでは、ミクロン〜ナノの領域をターゲットにしている為にNCデータ自身も超微小直線にて構成される為、従来技術ではNCデータの処理が足かせとなって送り速度が上げられない事が判明しました。そこでダイレクトモーション技術と呼ばれる、軸移動指令を直接モーション・コントローラへ出力する手法を採用しました。これによって僅かR0.5のインコーナーをF1,000[mm/min]という高い送り速度で加工した際にも形状誤差1μm、F360ではほぼゼロという驚異的な性能を実現しました。参考:第4回:制御での線分近似を避ける Tech On!

 結局HSMツールパスというのはよく注意して使わないと、機械・工具・制御装置の中の1番低い能力の物に制限されてしまうのです(まぁHSMに限った事ではないのですが)。HSMでは工具の能力を最大限に引き出す為に機械にも制御装置にも相当高度なモーション技術を要求します。これがHSMの最大の欠点では無いでしょうか。

負荷変動の無いツールパス


 さて、ツールパスを考える時に最も負荷変動の少ない加工とはなんでしょうか。それは直線加工に他なりません。直線加工では食いつきと抜け際以外では負荷は常に一定となります。切削工具のカタログに載っている加工条件も、溝加工、肩削り共に工具経路は真っ直ぐ直線にしか削っていません。その時にある一定寿命となる切削条件が標準条件という物です。そして機械や制御装置にとってみても単純な直線削りというのは送り速度を出せる最も簡単な削り方です。
 機械のXYZ3軸を観てみても構造的に速い軸と遅い軸が必ずあります。パラメータにてそれを制限している可能性もありますが、もしX軸の方がY軸よりも速く動けるのだとしたら、X軸だけを使って加工する方が同じ経路長であっても速く加工が終る筈なのです。現実には切削すべき領域を単一軸だけで加工する事は出来ませんが、それでも主たる切削を一方行や往復加工によって直線削りで加工する事は可能です。
 ジグザグ加工というのはまだCAMがそれ程発達していない頃、倣いフライスなどで行われてきた加工方法で、3次元CAMの最初期にもあった非常に単純な加工方法です。当然の事ながらツールパス計算も簡単なアルゴリズムで計算できるので計算時間が短く、また単純であるが故にトラブルもそう起きません。

 よく見なおしてみるとこのジグザグ加工こそが高速加工を実現する上での近道ではないかと想うわけです。

 ジグザグ加工の最大の欠点は、切り返しの部分での工具接触角の増大と負荷方向の急激な変化に伴なう工具の暴れる現象です。これを解決してやることで、あとは比較的単純な直線削りしか無いので、安定した切削が行える事が期待できます。
 1つのやり方として、最初に輪郭を全て加工してしまうという手法が考えられます。すると切り返しの直前で切削すべき余肉が無いので接触角が増大することは避ける事ができます。また切り返す直前では減速がかかりますが、この事は抜け際での負荷変動を抑える効果が見込めます。切り返し後の食付きについても同様です。
 そしてもう1つ重要な点が挙げられます。それは減速に伴って工具の一刃当たりの送り速度が低下しますが、これは逆にいうとツールパスの経路長に対して切れ刃の実切削長の増大を意味し、工具の摩耗を促進する事になりますが、予め輪郭を加工してあればそこはエアーカットとなって工具摩耗を促進する事が抑えられるという点です。HSMツールパスもそうですが、NCオプティマイザーの様な切削負荷に応じて送り速度や切込み量を調整するNCデータ最適化ツールには、この減速に伴なう摩耗促進についてどう考えているのでしょうか。工具の折損やチッピングにこだわるあまりに、工具摩耗を促進するようなのは最適化と呼べる物なのか、甚だ疑問です。とちょっと愚痴っぽくなりましたが、ジグザグ加工において予め輪郭だけを回っておけば、送り速度の調整など必要なくなります。機械は自分の限界ギリギリの所でブレーキを掛けて、反転動作を行うだけで良いです。制御装置も数百ブロックまで先読みしなくても特別問題ありません。

 このジグザグ加工というのは結構意外な盲点となっていたのでは無いかと思うのです。ただし現状ここで上げたようなプロセス(輪郭→ジグザグの繰り返しによる等高線加工)を行ってくれるCAMは私は見たことがありません。Mastercamには等高線加工でジグザグパスを選ぶ事ができ、またその際に輪郭仕上げとして輪郭を一回り回ってくれる機能がありますが、残念ながらジグザグ→輪郭という手順ですので、少し問題があります。仕上げ代を残して反転するので、壁へのベタ当たりは防ぐ事ができますが、輪郭仕上げにおいてガタガタになった所をナメる事になるので、ちょっと好ましくありません。それでも結構な効果は体験出来ているので、もう少し強化してくれればかなり実用的になるのではないでしょうか。

 あとは工具の限界まで送り速度を高めてやれば良いです。工具カタログにある送り速度は、特にボールエンドミルにおいては遅すぎと言って良いでしょう。試しに倍くらいまで上げたところで、結構問題なかったりします。極端に言えば刃が欠ける手前まで送って大丈夫です。意外とボールエンドミルの刃先は丈夫に出来ています。まぁこれは超硬母材が超微粒となってきて靭性が向上しているからなんでしょうね。
 送り速度をあげると実切削長が短くなるので、工具摩耗はむしろ低減できます。当然加工時間も短くなるので願ったり叶ったりと言った所です。
タグ:hsm CAM
posted by antec at 01:22 | Comment(0) | TrackBack(0) | 加工理論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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