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2010年04月13日

高速加工機に求められる性能

 高速加工を実現する上では加工方法や工具と同時に、それに対応できる機械の性能も求められます。主だった物として以下の3つについて触れたいと思います。勿論これら以外にも必要なものは多々あります。

・高精度な高速スピンドル
・膨大なNCデータを高速処理できる演算性能
・高い送り速度や急な加減速について来れる追従性

スピンドル


 高速加工機では切削速度を上げるために高速回転のスピンドルが必要となります。回転数を速くすると遠心力が増大しますので、低速回転の時にはさほど問題とならなかった僅かなアンバランスも高速加工では深刻な影響を与えます。また高速回転になると発熱も増えますので、主軸が伸びて刃先の高さが変化します。従ってスピンドルとしては低振動で伸びの少ない(伸びても工具長に影響しない)物が求められます。
 振動に関してはスピンドルだけでなくホルダや工具のアンバランスも影響してきますので、ユーザー側でも対策が必要となるケースが出てきます。ホルダについてはG2.5やG6.3といったバランス等級がありますので、これらを目安に高速回転対応の物を使う事も重要ですが、それでもチャッキング精度や工具自身のアンバランスもありますので最終的にはユーザーがバランス修正をしなければなりません。目安としては20,000 rpm を超える領域になるとバランス修正が必要と聞きます。高速加工が盛んなヨーロッパでは、段取りステーションには焼きばめ装置、ツールプリセッタと並んでバランス修正装置の3点セットで使う事が常識となって来ているようですが、日本ではまだバランス修正装置まで揃えている所は少ないように思います。あるドイツの方からアンバランスはとっても怖いんだぞーと色々と教えてくれました(はずです)が、何ぶん英語がよく分からないので殆ど理解出来ませんでした。

制御装置


 高速加工用のNCデータは3次元CAMで制作されるのが一般的ですが、CAMではその計算アルゴリズムと互換性の問題から多くが微小直線(G01)の連続によって生成されます。従ってそれを読み込む制御装置側は従来のように1ブロック毎に処理していたのでは追いつきませんので、予め数百〜1万ブロック程先までバッファに読み込んでおき、それらの点群データからフィードフォワード的に加減速を計算するような対応がなされます。また以前の様にDNCにてパソコンからデータを垂れ流していたのでは通信速度が足りませんので、機械側に膨大なNCデータを取り込めるようデータサーバやハードディスクといったストレージを搭載する必要もあります。
 さてこの微小直線のNCデータを処理する技術を一般的に高精度輪郭制御と呼びますが、これの演算性能の目安としては大体NCデータ1ブロック当たり1ms(ミリ秒)以下の処理速度が必要であるとされています。各社の具体的な性能を表した資料は殆ど持っていませんが、例えば三菱の最新制御装置MELDAS M700Vシリーズでは151,000 BPMと謳っていますのでおよそ0.4msで1ブロックを処理できる計算になります。(1000/(151000/60)≒0.397[ms])
 他の制御装置も調べてみたところ、HeidenhainのiTNC530は0.5ms(NCオプションの3D machiningを付けた場合。標準仕様は3.6ms)、Roedersでは<0.1msと言う数値がカタログに載っています。残念ならがFANUCとOSPに関しては具体的な数値を見つける事が出来ませんでした。
 またSiemens 840D sl / NCU 730ではCOMPCADと呼ばれる(FANUCのナノスムージングに似た)微小直線のNCデータをスプラインに補間してデータ量を削減する機能がありますが、これの処理能力は直線補間(G01)で1秒間に10,000ブロック処理できるとありました。つまり0.1ms相当だ!と。ちょっと強引な気もしますがこれはこれで1つのやり方です。

 これらNCの処理スピードについてHeidenhainのカタログには以下のような記述があります。
When running long programs from the hard disk, the iTNC has a short block processing time of only 0.5 ms. This means that the iTNC can even mill contours made of 0.1 mm line segments at feed rates as high as 12 meters per minute.

 要約 0.5msで処理できると言う事は、0.1mm間隔のプログラムに対して12m/min以上の送り速度で制御できる事を意味します。
 これはあくまでNC側の処理がこのスピードについて行けますよという事で、機械がその速度で動くかどうかはまた別の問題です。
 なおこの1ブロックの処理時間というものが、高精度輪郭制御だけのものなのか、スムージングや工具先端点制御などの他の処理も含めたものなのかは定かではありませんが、各社で若干指標が異なる様にも見受けられます。Heidenhainではそれら全てを含めての物だという話も聞く一方でFANUC(の30i)においてはこれらの機能を複合して使うと却って加工時間が伸びてしまうといったデータもあります。

 ※FANUCとOSPの処理能力に関して何かご存知の方はご一報頂けると幸いです。

機械の追従性


 さて残された課題は機械の追従性です。高送りを実現する上で大事なのは、そのスピードが出るかどうかではなく、如何にそのスピードを維持出来るかどうかに尽きます。時々高速加工は能率が悪いといった事を聞きますが、これは高速加工という加工方法に問題があるのではなく、その高速加工を実現できて居ないだけのように思います。よく機械のカタログには送り速度:最大40 m/min という様に最高送り速度の数値が載っていますが、高速加工機にとってこの数値はあまり重要ではありません。必要なのは最高速ではなく、その指令した速度まで如何に速く達することが出来るかという事です。通常どんな部品を削るにしても真っ直ぐ直線状にしか動かないなんて事はまずありません。寧ろ急コーナーやストップアンドゴーとなる加減速をしている場面の方が多いくらいです。
 では加速度(acceleration)が速い機械が高速加工機なのでしょうか。今まで私は高速加工機を比べる時の1つの目安としてこの加速度に注目していました。加工時間を短縮する為にはそれなりのスピードで動いてくれる必要があるのは当然ですが、現実問題としてそこまで加速できる距離が無い場面が多いので、加速度こそが加工時間を決定づける最も重要なパラメータであると考えていました。所がよくよく考えてみると、工具の経路は曲率も常に変化していますので例えF値が一定であっても加速度は常に変化している事になります。という事はその加速度の変化に追従するための加加速度(jerk)こそが、その機械の追従性を表していると言えるのではないでしょうか。
 さて加加速度について調べてみようにも、どの機械メーカーのカタログや資料に目を通しても殆ど目にする事がありません。具体的な加加速度の数値を載せているカタログは1冊もありませんでした。一方加速度については結構見かけるようになりました。10年程前の高速加工機でだいたい切削送り時0.5〜0.7Gくらい、近年では1G〜1.5Gくらいの加速度を謳う機械が出てきました。中には2.5Gといった物もあります。ですが先程も言いましたように、加工時間から言えば本当に重要なのは加加速度の方です。これが殆ど公表されないのは、機械メーカーの怠慢なのか、ユーザーの無知なのかはさておき、残念な事です。
 Jerkについて調べていたらあるMikron社の機械にて具体的な数値を見る事ができました。
MachineMIKRON UCP 710
Work Space710 x 550 x 500 mm
MAX Feed rate30m/min (X,Y,Z)
MAX Acceleration2.5 m/s2 (X)
3.0 m/s2 (Y)
2.1 m/s2 (Z)
MAX Jerk5 m/s3 (X,Y)
50 m/s3 (Z)

Circular tests for HSM machine tools:Bore machining application


 ここで注目したいのは、Z軸のJerkがXY軸のそれよりも1桁も大きな事です。加速度自体はZ軸が一番遅いにも関わらず、加加速度はZ軸の方が機敏というのは一体どういう事なのでしょうか。よく分かりませんが、加速が速いからといって必ずしも加速の立ち上がりが速いとは限らない様です。
 現在のMikron社の高速マシニングにはHSMシリーズと更に上のXSMシリーズがあります。XSMシリーズはHSMをベースにリニア技術などを盛り込んでより高速加工を追求した機種ですが、先日アジエシャルミージャパンの営業の方からこれらの機械のJerkやAccelerationといったデータを提供して頂く事ができました。何と!HSM600Uで最大加速度=10m/s2, 加加速度=300m/s3、XSM600Uでは最大加速度=14m/s2, 加加速度=600m/s3にも達するそうです。このJerk=600がどれほどの事なのか気になりますが、その資料によると停止状態から5mmの区間をF10,000mm/minの指令で動かした場合、
5mm移動するのに要する時間=0.064秒、実際の到達最大速度=9,321mm/min

とあります。おそロシア!いやスイスですけどね。
 またそこで聞いた話ですが、例えばYASDAのYBMで加加速度は30〜50くらい(ちょっと記憶が曖昧)、松浦機械のMAM72シリーズが結構速くて130くらいになるそうです。ただしこれはあるテスト加工の実加工時間から逆算した数値だそうです。またこの数値は機種によっても前後すると思いますので1つの目安くらいに考えて下さい。
 通常、加加速度を大きくし過ぎると振動などの悪影響を与えると言われています。そこで加加速度を緩やか(ベル型加速)にして振動を抑える工夫すらされています。ですが実際にMikron社の加工サンプルを見せてもらうと同時3軸はおろか同時5軸で加工した物でも素晴らしく綺麗なんですよね。海外の機械にはベッド素材にコンクリートなどの石材を使う事が多いですが、こういった振動対策が加加速度の向上に寄与しているのでしょうか。
 何れにしても高速加工機の能力を測る上でこの加加速度にも注目しなければならないでしょう。

 加加速度についてはまだまだ勉強不足なので、今後も色々と調べてみたいところです。


 何だか読み返してみると欧米崇拝の様な内容になってしまいましたが、所謂隣の花は赤いって奴です(ちょっと違うかな?)使ってみるとまた色々と欠点も見えて来るのでしょうが、現時点では情報を探してみても良い事ばかり言ってる広告みたいな記事しか見つけられなかったのでスミマセン。

追記

※1 Siemens 840Dでは従来と違って全ての補間をスプラインで扱っているそうです。従来スプライン補間は直線や円弧補間に比べて処理時間がかかってしまうので、品質面は向上してもスピードを犠牲にする場面があったそうですが、840Dの場合は逆に最初から曲面加工を意識してスプラインを標準にする事で高速加工性能を向上させているようです。ですので微小直線よりもスプラインに置き換えた方が処理し易い様です。

※2 加速度も加加速度も早送りと切削送りでは別の設定になっている場合が殆どだと思いますが、このエントリではその辺の区別が出来ていません。と言うか資料が乏しくどちらの設定の事なのかはっきりしないのです。制御技術に疎い故、紛らわしい事を書いてると思いますのでご指摘頂けたらと思います。
posted by antec at 00:27 | Comment(4) | TrackBack(0) | 加工理論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。o_y_dと言います。
makino製のD500を使ってます。
ブログで書かれている内容(高速加工)のことを、ある人からをきいて、ネット検索からここまで来また。
すごく興味がある話です。
そのときの話でF社の制御では限界があると聞きました。(内容はかけませんが・・・)
これからも勉強させてください。
Posted by o_y_d at 2010年11月08日 16:34
はじめまして。
D500とはまた羨ましい限りです。
ちょうど5軸加工(うちはロボドリルですが)に関わるようになった直後に発売されたので、牧野さんのセミナーにはしつこく何度も足を運んで色々と教わりました。

色々と聞きかじった事を妄想も含めて書きなぐってるので、正直内容の信憑性については話半分くらいに捉えてください。
FANUCさんも頑張ってはいると思うのですが、こうしてライバルの制御器が根本的に設計しなおして来てるのに比べ、従来からの互換性を維持する為に無理が来ている感が否めませんね。
Windowsでもなかなかレガシーなアーキテクチャを捨て去れない様に、そう簡単な話では無いのでしょうけど。

今後とも宜しくお願い致します。
Posted by antec at 2010年11月09日 04:15
航空機部品の高速加工に取り組んでいます。
航空機部品は自由曲面ではありませんが、異なった曲率の面が連続している場合が多く、CAMで創成したしたCLデータの理論加工時間と実加工時間がなかなか一致しません。
加加速度(jerk)が非常に大切な事が良く解りました。
その後、新しい情報や記事がありましたら教えてください。
Posted by wagahai at 2016年12月09日 18:21
正直サーボ系の話はあまり良く理解出来ていないのであまり信用しないで下さい(汁

このブログで書いたかどうかは分かりませんが、私自身は荒取りから同時5軸で行うべきだと、ロボドリルのなんちゃて5軸を使いだした頃(当時は3+2軸という加工が推奨されておりました)から思っていましたが、近年漸くそれが現実的な物になってきた気がします。

制御装置の方もそうですが、やはりCAMの対応がまず必要なので、CAMメーカーさんにはどんどん無茶なツールパスを出して頂いて、機械メーカーさんもそれに耐えうる機械に仕上げて頂きたいなと、好き勝手な事を言わせて頂いております。なので結構嫌われているかも。
Posted by antec at 2016年12月09日 20:25
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