2012年05月10日

荒取の工具寿命 其の一

 さて、取り敢えず負荷の方は概ね目論見通りとなりました。まぁS45Cは基本鋼種なのでこれで当てが外れてたら恥ずかしいです。

 あと工具メーカーの標準加工条件は15分寿命を基準に設定されてるのが一般的ですが、それも大体その通りだったのでセコの条件表も信用しても良さそう?

 で、使用したF40Mという工具材種は万能選手な位置づけで、何にでも対応出来るのは良いのですが鋼にはやっぱりデュラトミックの方が性能上なわけでして。それに2800rpmだとV33の低速側の最大出力に届かないので、もうちょい回転数を上げる為にもMP2500辺りに替えた方が良さそうですね。特に今回のような不安定要素の無い加工であれば十分その能力を発揮してくれそうです。或いはAdaptive Clearingで負荷変動の少なさも確認出来たのでより高耐摩耗なMP1500でも良いかもしれません。


 それとは別にして、15分寿命というのはやはりちょっと短い気がします。1個当たり約6分の加工時間なので3個で寿命という事に。これじゃちょっと忙しい。

 そんな訳で次は工具寿命の延長を検討してみる事にしました。なのでタイトルも変更。

 よく工具費は生産コストの5%以下しか占めないから云々というのはちょっと当てはまらない所があるダメ工場なので、取り敢えず倍くらいを目指して調整してみましょう。

 加工方法を大幅に変えても良いのですが、そうすると結局超硬ラフィングが最適じゃんという話になってしまうので、ここはひとまず切削速度のみ変更する所から。

 いやまぁ本来なら生産性を上げながら工具寿命も改善するといった事をせにゃならんのでして、ここでやってる事は手段と目的が入れ替わってしまってるのは重々承知しておりますけども。


 さてさて、切削速度と工具寿命の関係と云えば「テイラーの寿命方程式」っすね。 VT^n=C

 肝心の指数 n の値が不明なので適当に検索してみますと、例えば

● 切削速度による影響

  1. 切削速度を20%上げると工具寿命は2分の1、切削速度を50%上げると工具寿命は5分の1に低下する。
  2. 切削速度が低い(20〜40m/min)低速度側でもびびり振動が発生しやすく、工具寿命は短くなる。

三菱マテリアル株式会社 旋削加工の切削条件による影響 より引用

 という様なのが見つかります。同様にサンドビックの総合カタログにも

Turning_VT-Coefficient.png

サンドビック 総合カタログ2011 A235 より引用

 という表が載っております。表記の仕方は違いますが、どちらも略同じ関係を表しています。

 然しながら両者とも旋削用の資料ですので、転削にもそのまま当てはまるのか些か疑問。ですが他にこれといった資料が見つからないので取り敢えずこいつを信じてやってみる事にしましょう。あとは実際に削ってみて工具寿命がどう変化するのか確認してみれば良い事ですから。

寿命を2倍に伸ばすにあたって

 工具寿命を2倍にしたいのだからサンドビックの補正値表に従って切削速度を 84% に下げれば良い?

 工具寿命を時間で管理するならそうでしょうけど、僕の気持ちとしては使える時間を15分→30分としたいのではなく1コーナーで加工できる数量を3個→6個にしたいので、加工時間の遅延分も加味しないといけませんね。切削速度を下げる=送り速度も同様に下げるのが基本ですから、時間ベースでの寿命が倍に伸びても加工できる数は倍まで届きませんので。

 つまり仮に先の相関が正しいとして、また切削速度を下げた分だけ生産性も落ちると考えると、切削速度を84%に落とした場合に数量ベースでの工具寿命は 2 * 0.84 ≒ 1.7倍 にしかならない事になります。これじゃちょっと足りないですね。

 表では75%で寿命3倍となってますから 3 * 0.75 ≒ 2.3倍。これじゃ逆に行き過ぎなので間を取って 80% で多分 2.5 * 0.8 = 2倍 くらいかなぁと推測。

 ただ、先程の三菱マテリアルのVT線図を見ると、V*1.2でT*1/2やV*1.5でT*1/5というのはUTi20Tがまさにそんな感じですが、それに比べてコーテッド超硬の傾斜はちょっときつい様に見えます。これはつまり速度を上げても寿命の低下が少ないって事ですよね?コーティングの耐熱性だとかの影響でしょうか。

 それとやはり転削という点。断続加工なので空転時には冷却される事から、刃先温度の上昇が旋削に比べて緩いのではないかという気がします。

 それらを勘案すると切削速度を80%に落としたくらいじゃ加工可能数量が2倍まで増えてくれない気もします。ざっくり見て70%くらいは必要でしょうか?まぁこちらはかなり当てずっぽうなので取り敢えず最初は80%の方で。

 それに70%まで落とすと刃先温度不足による凝着が出てきそうな感じがします。そこまで行ってしまうと逆に工具寿命の低下を招きかねません。その点でもこれ以上の周速低下は避けたい所。まあこういった問題は本来あるべき姿とは逆の事をしようとしているが故です。

 グダグダ書きましたけど、以上から加工条件は

 S = 2800 * 0.8 = 2240 rpm
 F = 750 * 0.8 = 600 mm/min

 でどうなるか見てみる事にしましょう。

 一応これでCAM上での加工時間は5分40秒から6分55秒に伸びました。セオリーからは真逆の対応ですがこの方が少し手が離せて良いので。

 とりあえず次のロットでないと試しようがないので、結果はまた後日。

 来月また注文来てくれるかなぁ?


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2012年05月07日

荒取の負荷 其の二

 そんな訳で前回の続きです。加工条件等はそちらを見て下さい。

 とりあえず加工風景から。

 ※ ロードメータを重ねたものと差し替えました。

 この時のロードメータを工具モニタ画面で見てみるとこんな感じでした。

 ※ 動画の方でロードメータをオーバーレイ表示させる様にしたので以下の写真はあまり意味無いかも(汁

 ※ 右側の4つのグラフのうち、Sのグラフが主軸負荷を表しています。

MicroTurbo_SLGraph_Constant.jpg
 Fig.1 設定切込み幅でほぼ直線加工時 - (1)
MicroTurbo_SLGraph_Escape.jpg
 Fig.2 削り終わり〜次の切削開始 - (2)
MicroTurbo_SLGraph_Corner.jpg
 Fig.3 隅の追い込み - (3)

 このモニタ画面を撮った時のツールパス上での位置はここら辺だった気がします。

MicroTurbo_ToolPath.png
 Fig.4 負荷状況の撮影箇所

 加工方法がAdaptive Clearingなので切込み幅は一定ではありませんが、設定切込み幅で直線状に加工している時の主軸負荷は、新品インサートを付けての1発目が62%くらい、寿命末期で67%くらいでした(*1)。ほぼ計算通りと言って良いでしょうか。

 従来の(オープン)ポケット加工は輪郭を等ピッチにオフセットした経路でしたが、そうするとどうしても最初の1パス目はフルカットとなったり、コーナー部でエンゲージ角が増大するなどしていました。これの何が問題かと言えば、設定切込みの時の負荷を超えてしまう場面がある事です。

 対策としてはOptiPath®の様なツールを用いて送り速度等を再調整する方法もありますが、そういう道具が無い場合には手作業で同様の事をするか、或いは全体の条件を下げて極大箇所でも設定負荷を超えない様にするなどが一般的かと思います。

 一方、今回使ったAdaptive Clearingでは設定切込み幅で加工している時の負荷(Fig.1)を超える事がありませんでした(*2)。これは結構重要な点じゃないでしょうか。

 主軸の能力に十分余裕があれば多少負荷が増大しても何とかなるでしょうが、結構高めの所に設定している時にそれを超えてしまうのは危険です。

 Adaptive Clearingの加工風景をYoutube等で見ていると軽切込み高送りな加工が多い様に思いますが、こういった比較的重切削する時にもなかなか使い易いです。

 普段あまりこういった太いスローアウェイ工具を使わないので、これでも個人的には結構がっつり削ったつもりなんですが、能率の面ではφ10の超硬ラフィングに負けてるんですよね。まぁ今回は工具材質も工具サイズも最適とは言い難い物を使用したので仕方が無い面もあるかとは思いますが。


 因みに出来た切屑はこんな感じでした。

MicroTurbo_Chip.jpg
 Fig.5 切屑

 適度な焼け色で艶も有ってまあまあ良い感じじゃないでしょうか。

 でもこの切屑、やたら嵩張るのが難点。バケットがすぐに一杯になってしまいます。その点ラフィングの切屑は嵩張らないのは良いのですが、逆に細かすぎてクーラントタンクに堆積するのが困りものです。

追記 2012.05.15

 急遽材料1個用意して負荷のモニタ画面を撮影してみました。この方が負荷変動の様子が分かり易いかなと思って。

 要するに何が言いたいかと言うと、想定を超える様な無理な負荷がかからないツールパスは素晴らしいという事です。HSMWorksやiMachiningやOptiRough等々のデモ動画は超高速なのばっかですけど、あれはあれでやっぱり諸事情により使えない場面もあるわけで。でも活用の場面はそこだけじゃ無いよねと。

 しかもアルゴリズム的にストックを認識してるから、比較的無駄の無いツールパスを作成しやすい点も利点かも。まぁそのストックの管理方法についてはCAD/CAMシステムに依存する部分ではありますけど。


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注記

*1 ロードメータの写真はインサートの寿命末期(ワーク3個目の中盤)のもの。一方動画と切屑は2個目の時に撮影したもの。

*2 勿論絶対に超えないとは限らない。


posted by antec at 16:09 | Comment(1) | TrackBack(0) | 加工理論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年05月03日

荒取の負荷 其の一

 今まで超硬ラフィングで荒取ってたワークを何を思ったかスローアウェイでやってみることにした。

 工具の選定はたまたまそこに有ったから(*1)という理由でセコのφ32マイクロターボ。正直スカスカトルクの20,000rpm主軸には少々太い気がするけど物は試し。

 まずマイクロターボの切刃長は約10mm、ap maxは8mmという事になっている。またZ-20.0の所に平坦部があるのできり良くその高さを走らせたい(*2)。2回で削るには刃長がちょっと足りないから3回に分けるとして ap=20/3≒6.6。端数の分は仕上げ代に。

 軸方向に浅く削る時は径方向は大体工具径の2/3前後が好みなので、ae=32*2/3≒21。

 切削速度や刃当たり送りはメーカー推奨値ほぼそのまんま。

 という感じで決めた条件だけど果たして上手く行くだろうか。纏めると

諸条件
被削材S45C
加工領域105 x 155 x 25
使用工具φ32 SECO マイクロターボ
工具型式R217.69-3232.0-09-3A
インサートXOMX090308TR-ME06 F40M
機械牧野フライス V33
回転数 S2,800 rpm
切削速度 V281 m/min
送り速度 F750 mm/min
刃当り送り Fz0.09 mm/刃
軸方向切込み ap6.6 mm
径方向切込み ae21 mm
切屑排出量 Q104 cc/min

 この工具をV33で使うのは初めてなので、念のために実際に削る前に負荷を見積もっておく。まず所要動力の計算式はこんな感じでした。

   Pc = Ap * Ae * Vf * kc / (60E+6 * η ) --- (1)

    Pc:所要動力 [kW]
    Ap:軸方向切込み量 [mm]
    Ae:径方向切込み量 [mm]
    Vf:テーブル送り速度 [mm/min]
    kc:比切削抵抗 [N/mm2]
    η:動力伝達効率

 この中で kc の値を知る必要があるのでセコのカタログを参照すると

   kc = kc1.1 * (1-γo/100 ) / hm^mc  [N/mm2] --- (2)

   kc1.1:1mm厚の切屑に掛かる比切削抵抗 [N/mm2]
     mc:指数
     hm:切屑厚み [mm]
    γo:有効スクイ角 [°]

 という式が載っている。kc1.1とmcの値は「セコ被削材グループ(SMG)」に分けて載っており、S45C(SMG3)はkc1.1=1500mc=0.25となっている。

 γo の値はカッタの有効スクイ角 -10〜-7°、インサートのスクイ角が24°となっているので、合わせて15°くらいだろうか。

 切屑厚み hm についてはこちらの記事でも触れたけど、これもセコのカタログにも載っており

   hm = 360 * sinκ * Ae * fz / (π * Dc * ωe )  --- (3)

    hm:平均切屑厚み [mm]
    κ:切り込み角[°]
    Ae:径方向の切り込み量[mm]
    fz:一刃当たりの送り量[mm]
    Dc:カッタ径[mm]
    ωe:エンゲージ角[°]

    ωe = arccos(1 - 2 * Ae/Dc ) --- (4)

 で求めることが出来る。これで漸く必要な計算式が全部揃っただろうか。では順に下から。


   ωe = arccos(1 - 2 * 21 / 32) ≒ 108.2°

   hm = 360 * sin90° * 21 * 0.09 / (π * 32 * 108.2 ) ≒ 0.062 mm

   kc = 1500 * (1-15/100) / 0.062^0.252550 N/mm2

 ここで注意点。M級のスローアウェイの刃はあまり切れ味が良くないので、上記の様に素直にkcを計算しただけだと実際より過小評価となってしまう。これは安全上あまり好ましくない。同様に刃が摩耗してきた際にも切れ味の低下に伴って比切削抵抗が増加する。あまりこの事に触れている資料は見ないけど、Kennametalの計算ツールにはそういう項目が有った。

 経験上、M級スローアウェイの場合で1.2〜1.3倍くらいに見ておけば良さそうに思う。

 というわけで


   kc = 2550 * 1.25 ≒ 3190 N/mm2

 こちらを採用する事にする。

 最後に所要動力は


   Pc = 6.6 * 21 * 750 * 3190 / (60E+6 * 0.9 ) ≒ 6.1 kW

 で、この時の主軸の出力はというと、V33の主軸出力線図から読み取って


   Pout = 2800 / 3300 * 11 ≒ 9.3 kW (3,300rpmまでは回転数に比例してるので)

  ∴主軸負荷率 = 6.1 / 9.3 ≒ 65 %

 といった具合になりそう。65%の負荷ならばまぁまぁ良い感じかな。

 一応連続定格の範囲では 5.5kW なので若干オーバーしてる訳だけど、この条件での加工時間はたかだか6分程度なのであまり気にしない。この時点で負荷がやばそうなら切込み減らす等して再度計算し直す所だけど、これなら行けそうなのでやってみる。


 と、前置きがだいぶ長くなったので次回に持越し。

 最後に上記の計算スクリプトをペチャっと貼って今日はおしまい。

動力計算
カッタ径Dc [mm] 工具諸元
刃数Z [枚]
切込み角κ [°]
有効スクイ角γo [°]
回転数S [rpm] 切削条件
切削速度V [m/min]
送り速度F [mm/min]
刃当り送りFz [mm]
軸方向切込みap [mm]
径方向切込みae [mm]
比切削抵抗kc1.1 [N/mm2] 被削性
指数mc [ ]
切れ味補正Cw [ ] 係数
動力伝達効率η [ ]
 ↑↑ここまでの項目を全部入力して下さい↑↑ 
エンゲージ率ae/Dc [%] 計算結果
エンゲージ角ωe [°]
平均切屑厚みhm [mm]
比切削抵抗kc [N/mm2]
所要動力Pc [kW]
切屑排出量Q [cc/min]

 ※エラー処理をしていないのでおかしな値を入れるとおかしな事になります。


 一応以下の記事と絡めた内容のつもりですので参考までに。

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余談

 V33の出力線図にも「小径工具を使用した高速加工に対応します」と有るように、やっぱり荒取りには向かない機械だなぁと改めて思う。まぁ他に無いから仕方ないんだけど。

 そこをあえてV33でやるとなると、やっぱりフル出力に達する 7,500 rpm 以上の領域で使える工具で勝負していかないと勝てないよなぁ。


注記

*1 社長が買ったきり碌に使ってなかった。つか2.2kWのフライスではしんどくて当たり前なのに何故買ったんだ?

*2 等分割が良いのかどうか。境界損傷の点からは切込み深さが変化した方が良いのではないかとも思う。まぁS45Cごときに境界損傷も糞も無いけど。

タグ:HPM 切削理論

posted by antec at 01:06 | Comment(0) | TrackBack(0) | 加工理論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする